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■ 第5部 GUN日記
涙と笑いの体験記
■ 10月26日 天国から地獄へ

一週間後となる来週火曜、僕は人生初の入院をする。

ちょうど2週間前の火曜日10月12日に、「がんの可能性あり」と宣告を受けた。
不思議と現実感は希薄で、恐怖も感じなかった。ただ、不安と混乱がぬぐえない不快感としてまとわりついていたうざったい2週間だった。

僕は会社で少林寺拳法部の部長をしていた。部長といっても学校の部活の部長とは違い、弟子をもって育てる身であり、同好会のリーダーではなく、むしろ町道場の師範に相当する。

宣告3日前の10月9日には、少林寺拳法関東実業団大会があり、我が部も大奮闘、快挙と言ってよいほどの好成績を残した。その夜は、連盟設立40周年記念のパーティもあった。僕も若手理事のひとりとして式典を裏方で切り盛り、忙しいながらも充実した1日となった。
その後2日間の連休は、大変気持ちよく過ごすことができた。

休みがあけた12日火曜日。前週のMRI検査結果を会社近くの外科病院に聞きに行って、まったくうれしくないサプライズが起きてしまった。

右でん部に数年前からおできがあった。何度か病院に行ったが、「良性だろう、このまま経過観察で心配ない」と言われてきた。
でも日本経済の停滞をしり目に、ぷっくんと名付けたこのおできだけは、年々順調に成長。ついにはゆで卵大にまでなっていた。良性でもあまり大きくなるようなら切除したほうが良いらしい。決心して病院に行った。

下の筋肉に食い込んでいるかどうかで、局部麻酔か全身麻酔にするかも変わってくるという。大きさが大きさだけに微妙とのこと。そこでまず、MRIで検査することになった。それが先週のことだった。

「大丈夫ですね。筋肉とはつながっていません。」医者がMRIの画像を見ながら、冷静な表情で言った。このお医者さん、ちょっと赤ら顔だが、きっとそういう人なのだろう。
「ああ、そうですか、良かったです。」特に意識もせず僕の口から出た言葉。
「ですが、ふつうこうはならないんです。」何のことだ。
「脂肪腫の場合、一様に真っ白なんですよ。」どういうことだ。確かに画像を見ると腫瘍の塊の奥に一部ゴニャゴニャっとした黒い影が写っている。
「悪性の疑いがあります。」なんだそれ。がん・・・か。

まったく予想外の角度からパンチが飛んできた。
ノックアウト・パンチではなかったが、意表をつかれどうして良いか分からなかった。

帰宅する電車の中で、考えるともなく、いろいろな思いが頭に浮かんできた。
まだ、疑いがあるとしか言われておらず、正式ながん宣告ではない。はっきりしたことが分かるまで、妻には伝えないでおこう、普通に振舞おう、そう決めた。
たとえ死ぬことになっても別に怖くは無かった。ただ、妻との会話をシミュレーションするたびに妻がかわいそうに思えてきた。涙があふれ出そうになった。天井を仰ぎ見て盛んに瞬きをした。

家に着き、いつものように「ただいま」と妻に声をかけたが、その直後一気に涙がにじんできた。
やばいっ。こんなところで泣いたら、不自然でばれてしまうかもしれない。
スーツを脱ぎながら、僕は心を落ち着けるよう、無理やり他の事を考えてみた。

3日前の天国から、まっさかさまに地獄に落ちた気分だ。心の準備もできておらず対応が後手に回っている感じがする。まいったさ、ホントまいったさ。