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■ 第5部 GUN日記
涙と笑いの体験記
■ 10月29日 悪性腫瘍の疑いあり

殿様クリニックで不快な思いをした3日後の月曜日、最初に産業医さんが紹介してくれた会社近くのクリニックに行くことにした。10月4日のことだった。

今回のクリニックの先生は、先日のお殿様とはうってかわり、患者の話を親身に聞いてくれる方だった。それだけで、なんとなく信用できそうな気がした。しかも、手術方法を判断するまえにMRIで現状を確認しようと言う。念入りだが、こちらにとっては一生にたった一個の大事な身体だ、慎重すぎるに越したことはない。

MRIの機材はべらぼうに高いらしい、このクリニックにも機材はなく、別のクリニックでMRI検査をしなくてはいけないという。すぐMRIの予約をとってもらい、翌日午後東京駅近くのMRI専門のクリニックに行った。

僕は数年前に肝臓に腫瘍があると言われた。幸い良性だったが、やはりそれもゆで卵大の大きさだったので、以来毎年1月にMRIで経過観察をしてる。今回紹介されたクリニックは、いつも肝臓の腫瘍をチェックするクリニックだった。だから、ここでMRIをとるのは今年2回目となる。
ただ、このときは何も深刻なことは考えていなかった。腫瘍は当然良性だと信じていた。このとき気になっていたのは、その週末の控えている少林寺拳法実業団連盟の40周年イベントのみだった。

イベントが無事終了した翌週火曜日12日、再び会社近くのクリニックに行った。単にMRIの読影結果を聞くだけだと油断していたところに、予想もしていなかった「悪性腫瘍の疑い」を言い渡された。
なんどもなんども医者の言葉をひとつひとつ確認しながら、今後の予定を決めていくのだが、耳に届く言葉の意味がよく理解できなかった、まるで気持ちをどこか遠くの霧の中へ引きずり込まれるような感じと、猛烈な水流の中で、流されないように必死に何かにしがみついているような感じがしたことを覚えている。

手術は設備の整っている大病院で行うことになった。紹介状はすぐ書いてくれるという、その間しばらく、僕は待合室で待たされた。
その時も、待合室の風景が目に飛び込んでくるのだが、それらが別の世界の出来事にしか感じられなかった。他の患者さんの様子もまるでテレビの中の光景のように映った。

いろいろな言葉や情景が頭の中にランダムに浮かぶ。
現実感はまったくない・・・が、がんかもしれないというのは現実の出来事。死ぬのはさほど怖くない。僕に子供はいない、そういった意味では足かせは少ない。ただ、結婚15年の妻がいる。一人残された妻が悲しむ姿を想像すると涙が出てきた。ぐるぐると回る頭の中だが、なぜか思いはそこに集中していくのだ。

40半ばのオヤジが涙を流す図も変だ。他の患者に気付かれないうちに、なんとか涙を止めようと上を向いたり、瞬きをしてみたりした。だけど涙の湧き出るスピードのほうがちょと早いようだ。指でぬぐうしかない。
このときは、思考も感情も全然収集がつかなかった。
自分で自分がコントロールできなかった。