技術、練習方法、教えの実践・・・ 少林寺拳法に関する研究発表の場
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■ 戦術組成を考える (明竜)
章へジャンプ→ プロローグ|戦術組成とは戦術例戦術の練習方法戦術組成から乱捕へできる範囲を広げていく

私が習った戦術組成に関する一連の事柄をまとめてみました。

■ プロローグ
●法形練習をやっても乱捕練習が上手くできない理由

先日少年練成大会を見学に行き、ある先生とお話していて改めて感じたことがあります。支部や道院で一般的に行なわれている練習は「動き」以前の部分が欠落しているのではないかということです。

そもそも拳法を使う時には、相手の行動の「おこり」を感じ取る力と、相手の動きに合った対応方法を選択する力があったうえで、実際の動作になります。いささか乱暴ですが、ザックリとモデル化すると、守者が動作に及ぶプロセスはこの3段階に分けられるわけです。

で、法形練習はその3段階目の「実際の動作」のところだけの練習にあたります。法形練習だけ何十年やっても乱捕りが一向に上達しないのはそのためです。

●ごっそり抜けているもの

では、少林寺拳法は実戦的な護身術ではなかったのでしょうか。
私はそうは思いません。八方目や平常心などは「相手の行動のおこりを感じ取る」ためのポイントですし、戦術組成は「相手の動きに合った対応方法を選択する」ための「対応方法」を事前にちゃんと決めておこうとするものです。ですから少林寺拳法の技術が実戦的でないのではなく、現在広まっている一般的な少林寺拳法の練習方法にごっそりと抜けてる部分があると思われます。

戦術組成という言葉も結局多くの拳士が何となく理解して、勝手に使っているようです。別に言葉ですから誰が何と使おうが自由なのですが、少林寺拳法を身に付けたいのなら話は別です。戦術組成という言葉に込められた概念を正しく理解して実践しない限り、いつまでたっても少林寺拳法を使えるようにはならないでしょう。

身体を動かすまえに、その練習にどういう意味があるのか、何のためにやっているのかを理解する必要があります。これから、何回かで私が習った戦術組成に関する一連の事柄を整理してみたいと思います。

■ 戦術組成とは

戦術組成とは
「あらかじめ相手の攻撃に対応する自分の動きを決めておくこと」です。

あらかじめ・・・少林寺の法形は山ほどあるし、上段の直突に対する防御法ひとつをとってみても幾つもあります。上段直突に対して自分がどうやって対応するかあらかじめ決めることなく、とっさの時何か的確な動きが自然と出ることなどありえません。あらかじめ決めて、刷り込んであるから出るのです。ですから相手の攻撃に対する自分の対応パターンを事前に決めておくことが必要なのです。


相手の攻撃に対応する・・・これは何パターン考えたら良いのでしょう。多いほうが木目細かい対応ができる利点がありますが、一方少ない方が使いこなすのは簡単です。これはトレード・オフの問題なのでどこかに損益分岐点を設ける必要があります。
最初は次の12パターンの攻撃に対する自分の動きを考えてみるのはどうでしょう?

1.上段直突(ストレート)
2.上段振突(ロングフック)
3.上段への振蹴(ハイキック)
4.中段への振蹴(ミドルキック)
5.下段への振蹴(ローキック)
6.中段前蹴
 *それぞれ左右 合計12パターン


自分の動き・・・自分の動きを考えるにあたっては、いくつかの原則があります。
■同じ構えからスタートするものであること
左前か右前かは当然、手の位置、重心の位置も同じでなくてはいけません。逆に言えば、同じ構えからスタートできない動きは相性のわるい動きですから、戦術から外さなくてはいけません。
■シンプルな動きであること
ある攻撃へは右へ千鳥入り身、別の攻撃には屈身、また別の攻撃には半転身・・・では、動作に移るまでに一瞬の間があき命取りです。特に重心の動きはなるべくシンプルな一方向に統一したほうが良いでしょうし、手足の動きも同じ動作や似た動作に集約した方が出しやすい動きとなります。
■防御と反撃は必ずセットで
防御だけの法形が無いように、戦術も防御だけではなく必ず反撃までセットで組むことが肝心です。
■原理・原則を忘れずに
戦術組成をするにあたり、むやみに他の武道の動きを取り入れる前に法形ではどうやっているかを照らし合わせてみるべきでしょう。また、何か迷ったら分かりやすい一般的な物事に置き換えて答えを出すことが重要です。
決めておく・・・防御反撃の手順を決めたら、刷り込みながら試してみることです。頭の中ではスムーズに動けたのに、やってみたら思ったほどうまくいかないということは必ずといってよいほどあります。うまくいかない時は、身体になじんでないか、動きに無理があることが原因です。動きに無理があるにもかかわらず、闇雲に繰り返しては間違った動きを身に付けてしまうことになります。常に試して確認しながら刷り込む作業が必要なのです。そしてこの作業の成否もやはり練習相手との関係が大きなウェイトを占めることでしょう。
■ 戦術例

●詳細は口伝にて
  • よく雑誌などで見かけるものとして「猫足待気構え」からの戦術があります。
  • 他にも「猫足乱構」や「前屈前手」「前屈逆待気」「後屈一字」からの戦術を使う人も見たことがあります。
  • 私自身は「脱力下段」構えで戦術を組んでいます。

■ 戦術の練習方法
●まずは一番破壊力のある右の振蹴から

12個の防御反撃パターンを決めたら、まずはどれか一つの攻撃にフォーカスして作りこんでいきましょうか。個から全体を見るやり方です。

と言ってもさほど難しいものではありません。とりあえず、右振蹴に対する防御反撃の動作から押えてみましょうか。ではなぜ、右振蹴からなのか?
一番強い攻撃であるため、それを受けられるようになれば大きな自信となるでしょう。その反面、振蹴はもっとも予備動作が大きいという弱点も持っています。はっきり言ってカモです。まずはコイツから料理しましょう。

 *できるだけ守者は防具をつけ、当てる攻撃に対する練習を行ないましょう。

●一本乱捕り

何度か形を合わせたら、一本乱捕りをしてみましょうか。攻者に許される攻撃技は右振蹴だけです。ステップやフェイントを使いながら右振蹴だけで乱捕りします。守者はそれに対し、先ほど決めた自分の対応方法(戦術)で捕っていきます。言わば限定乱捕りの条件を思いっきり絞り込んだものとお考え下さい。

たしかにこの練習では攻撃技を限定しています。しかし自由なタイミングで攻撃してくる攻者を取り押さえれば、虚実の感覚や間合いの感覚も養われることでしょう。

●ギリギリ・セーフ

このとき攻者は往々にして相手が「ギリギリできない」レベルで攻撃してしまいがちですが、その逆で「ギリギリできる」レベルをキープすることが重要です。そしてこのレベルは日により、時により変わりますから相手を見て常に相手のギリギリできるレベルで引き上げ続けるのです。

これは非常にデリケートなマインドを要求されることなので、信頼できる相手にしかできないことです。でも、他人は鏡ですから、自分の練習で協力してもらいたいならば、逆にまず自分が相手から信頼される人間にならなくてはいけないということでもあります。

●左右の振蹴をセットに

対右振蹴がゲームのように楽しめるようになったら、次に左の中段振蹴に対する防御反撃を同様にやってみましょう。なぜ、左の中段振蹴かというと右の振蹴とセットになるからです。

■ 戦術組成から乱捕へ
●誰もがぶち当たる壁

一本乱捕りでは攻撃を決めて戦術で対応していました。今度は左右の振蹴を相手に戦術を使ってみる練習をしましょう。

ここで守者はちょっと難しく感じるかもしれません。なぜなら、それまでの練習では守者はどの対応をするか決まっていたので、タイミングだけに集中していればよかったのですが、ここからは相手の動きを「感じ」自分の戦術の中から対応するものを「選択」する作業が発生します。そしてここで一瞬迷うと、そのあとの動きのタイミングに狂いが出てきてしまうからです。

しかし新しい要素が練習に入ってきたわけですから、特に慣れるまでの間は、迷いや躊躇が起こってあたりまえなのです。ここで攻者がさらに揺さぶりをかけ、守者を混乱させることはわけないことです。そして往々にしてこの段階で守者がつまづいてしまうのです。

つまづいた守者は(今日習ったことを、道場で反復練習し身に付ければ結構使えると思う)という「いつの日か」タイプか、(レベルの高い攻撃に対しては通用しない)と諦める「モグラ叩き式乱捕り回帰」タイプになってしまうことが多いようです。

●攻者が引きだす

この壁を越えるポイントは「攻者のリード」です。守者が上手く受けられるギリギリ・セーフのレベルをキープできる攻者の存在が不可欠です。そのためには双方が練習の意味を理解することは当然のこと、攻者が気持ちよく協力してくれる人間関係を普段から作れているかが決め手となるでしょう。

環境によっては練習相手に恵まれず(俺の周りには、そんな人はいない)と考えてしまう人もいるでしょうが、そう言い続けるかぎりその人に上達はありえません。組手主体でなくては技術の会得はまず不可能に近いでしょう。上手くなりたいのならどんな手をつかってでも周りにそういう人を作るしかないのです。

でも、どうやって?
いい仲間を作る秘訣は、まず自分が相手にとっていい仲間になることです。あとは知恵と勇気と多少のはったりです。

こう考えるとたかが練習環境でも金剛禅の思想とだぶってきませんか。少林寺の特徴に拳禅一如があるのは伊達ではないようです。

■ できる範囲を広げていく
●うるさいところも押えましょう

右振蹴、左振蹴りという左右の大鉈を押えたら、次はこうるさい槍の殺し方を押えてみましょう。 「左を制するものは世界を制す」というのはボクシング界では有名な言葉です。この素早く厄介な左の順突が次のターゲットです。
この練習で使う防具はスーパーセーフよりフェイス・ガードの方が向いているでしょう。

そして、対左順突も形を覚えたら、左の順突と右振突だけの限定乱捕りなどゲーム的に試してみるとおもしろいかも知れません。

●残りはやり易い順番で

一番強い攻撃と一番うるさい攻撃に対する練習ができたら、あとは本人のやりやすい順番で覚えていきましょう。

●防具のメリットを活かす

なお、一本乱捕りやその後の限定乱捕りの際も、フェイス・ガードやボディー・プロテクターを着けてやるようにしましょう。防具の上から軽く叩かせ、2、3回に1回ぐらいの割合で不定期に戦術で対応するようにします。これは毎回受けていると攻撃が段々変わってしまうからです。攻撃が変るといっても攻者も無意識にやっていることなので、攻者を責めても意味はありません。常に正しい攻撃をしてもらえるようにする「仕組み」が必要であり、その仕組みが不定期で受けることなのです。そして、それを可能にするには性能の良い防具が必要なのです。

それに、受けられたか受けられてないか分からないようでは意味がありません。防具をつけておけば失敗した時は防具を叩かれてしまうので分かりやすいでしょう。
また、攻者にしても安全かつリアルな攻撃を仕掛けるためには着けてもらっていたほうがやり易いでしょう。

●特徴に照らし合わせて検証する

少林寺拳法の特徴は、「拳禅一如、力愛不二、剛柔一体、組手主体、守主攻従、不殺活人」です。 剛柔一体はどんな戦術を組むかによってちょっと変わってきますが、今ご紹介したような練習方法は少林寺拳法の特徴がほぼ網羅されているのではないでしょうか。

もうひとつ注目してほしいのは、ここで紹介してきた練習方法は、決してルールの中で勝敗を競うものではないですが、結果的に攻守に分けた乱捕り練習になっていなることです。有益な乱捕りや安全な乱捕りを模索するにはルールよりも仕組みで考える必要があるのではないでしょうか?



少林寺拳法修得のなかでの「戦術組成」の位置付けや、やり方などを理解する一助になれましたでしょうか?